今度こそさようなら、ドラえもん・零式の巻 其の弐拾六

斜メ前田慶次「・・・ち・・・違う・・・そっちじゃねえ・・・!」

 どういうわけか慶次の出した尿は、ドラえもん・零式が倒れている方向に流れていかず、茜の脱ぎ捨てた浴衣の方向へまっしぐらに進んでいったのであった。

斜メ前田慶次「む、無念・・・!」

 三分ほど後に、全ては終わった。最後の希望であった尿は、茜の浴衣に全て吸収された。これでドラえもん・零式を起こす手だてはなくなった。早漏になることから逃れられなくなってしまったのである。

斜メ前田慶次「・・・・・・!」

 麻痺はとうとう舌にまで及んだ。眠気ももはや限界を迎えていた。精根尽き果てた慶次は、何もかも諦め大人しく眠りに落ちることに決めた。


2016050701.gif

ジョースター卿「・・・慶次、逆に考えるんだ。『早漏でもいいさ』と考えるんだ」

 重くなった瞼を閉じ、意識を失う前のほんの一瞬。瞼の裏に浮かんだのは、何故かジョースター卿の姿だったと後に慶次は語った。

斜メ前田慶次「・・・・・・?」

 一体どれほど時間が経ったのだろうか。慶次は人のいる気配で目を覚ました。そこはさすが、戦国の世に生きるいくさ人と言えるだろう。だが身体が動かず、声を発することもできないのは相変わらずであった。

斜メ前田慶次「・・・・・・」

 誰かが、自分の足元で両膝をつき、すすり泣いている。声から判断すると若い女か。目がぼんやりとしてその姿ははっきりしないが、何故かその女は自分を助けようとはせず、背中を向けたまま、ただすすり泣きを続けている。一体どういうことなのだろうか。

斜メ前田慶次「・・・・・・!?」

 何度かまばたきをして、ようやくはっきりした視界に映ったのは、まさかの茜の後ろ姿だった。すすり泣いていたのは茜だった。

斜メ前田慶次「・・・・・・・!」

 浴衣を小便まみれにされたことが悔しくて泣いているのだと、慶次は解した。だがそれは決して茜に対する仕返しなどではなく、ただ早漏になりたくない一心で行ったことであり、あくまでハプニングに過ぎない。どうにかして誤解を解きたいと必死にもがく慶次であったが、残念ながら一声たりとも発することはできなかった。

茜「・・・・・・」

 茜もまた、一声も発せずただひたすら、すすり泣きを続けていた。慶次はたまらなく、情けなくなった。そして誤解をされたままおそらく茜と今生の別れとなることも悲しくてならなかったが、やがて訪れた第二の睡魔に抗うことができず、再び眠りに落ちることになった。慶次の一日はこれで終わった。

 もっとも、茜は浴衣を汚されたことが悔しくて泣いていたのではなかった。無論、悔しくはあったがそれ自体は泣くほどではない。仕事における常日頃のストレスと、ここ最近プライベートで悪いことばかりが起こり精神的に疲労していたところに、浴衣が使い物にならなくなったことが契機となり、こらえ切れなくなってしまったのである。

茜「・・・痛っ! ・・・いったぁっ!」

 ひとしきり泣き、涙が枯れたところで越後に帰ることを決意した茜は、立ち上がって一歩進んだところで慶次の小便に足を滑らせ転倒。右ひじを強打したという。泣きっ面に蜂とはまさにこのことだろう。やはり二度と来るべき場所ではないと心に刻み、茜は一人越後へ向けて旅立ったのであった。

斜メ前田慶次「・・・・・・・」

 茜に毒を盛られた事件から数日が経過した。慶次はその間、食事もろくに取らず塞ぎ込んでしまっていた。

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ドラえもん・零式「・・・もういい加減、元気を出したまえ」
斜メ前田慶次「お前に何がわかるってんだよ」
ドラえもん・零式「家の中が辛気臭くてしょうがないんだよ」
斜メ前田慶次「俺はもう、男として終わったんだぞ。どうやって元気を出しゃいいんだよ」
ドラえもん・零式「起たなくなったわけでもないし、大げさなんだよ」
斜メ前田慶次「ドラ、俺はな・・・」
ドラえもん・零式「ん?」
斜メ前田慶次「今後、オネエキャラとして生きることも考えている・・・そのほうが人生、楽になるんじゃないかと」
ドラえもん・零式「気持ち悪いことを言うんじゃない。そんなことで前田慶次に勝てると思っているのか」
斜メ前田慶次「その夢ももう、だんだん遠くなってきている。もうずいぶん、合戦場に入れてねえしな・・・」
ドラえもん・零式「全く、しょうのない男だな・・・」

 ため息をつきながらドラえもん・零式が慶次に差し出したのは、今までに見たことのない丸薬であった。

斜メ前田慶次「何だよ、こりゃあ」
ドラえもん・零式「残念ながら、早漏を治せる薬は22世紀でも開発されていない。しかしこの薬なら、早漏を治すことができるかもしれない」
斜メ前田慶次「だからこの薬は何だってんだよ」
ドラえもん・零式「遅漏仙さ」
斜メ前田慶次「遅漏仙、だと!?」
ドラえもん・零式「君は、茜ちゃんに感謝しなければならないんだよ」

 ドラえもん・零式の話すところによると、やはり慶次のことを哀れに思った茜は越後への道中で再び踵を返し、買い物に出ていたドラえもん・零式と甲府の両替所前で接触したという。

茜「早漏仙の効果を打ち消す薬はこの世にありませんが、この薬を飲めばあるいは・・・」

 中和されるかもしれない。片寄った天秤が元に戻るかもしれないと茜は語った。直接本人に渡してやってはどうかとドラえもん・零式が提案したが、茜は頑として首を縦に振らなかったという。またどんなひどい目に遭うかわからないからだ。

ドラえもん・零式「・・・そう言わず、寄って行きなよ! このままお別れじゃ寂しいよ!」
茜「さようなら・・・」
ドラえもん・零式「!?」
茜「ドラえもん・零式さん」
ドラえもん・零式「・・・茜ちゃん!? どこだい? 茜ちゃん!」

 その言葉を最後に、茜はドラえもん・零式の前から姿を消したという。

ドラえもん・零式「どうだい? わだかまりを捨てて、この薬に賭けてみては」
斜メ前田慶次「・・・どうだいも何も、使うに決まってんだろうが! 来た! 俺の青春が再びやって来たんだ!」
ドラえもん・零式「この薬も早漏仙と同じく、効き目が出るのに時間がかかるらしいよ。まあ八時間は見たほうがいいんじゃないかな」
斜メ前田慶次「八時間かよ・・・ちくしょう、待ちきれねえ。このムラムラをどうやって発散すりゃいいんだ」
ドラえもん・零式「頼むから、自家発電はしないでくれよ。感電のリスクが高まるから」

 そしてきっちり八時間後。意気揚々と甲府の一画に設けられた遊郭に出かけていった慶次であったが・・・

娼婦「お客さん、お時間です」
斜メ前田慶次「遅漏になっただけじゃねえか!」

 ・・・慶次は遅漏になった。

おわり
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Date: 2016.05.07
Category: 信on休止中
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